グルジア映画『やさしい嘘』を鑑賞。不安定な経済状態のグルジアで多少の不自由がありながらも精一杯生きている女性3世代の家族。フランスへ出稼ぎに行ってしまった息子を想う祖母を中心に3世代3様の生き方、憎まれ口をききながらも気遣い合う姿を淡々と描いている。
この映画を観るにあたってグルジアの現代史は欠かせない要素だ。作品中に出てくる主要キャラクタ3人はは親子3世代の女性なのだけど、その3者には歴史的背景が常に付いてまわる。
公式ページよりグルジア史解説ページ『グルジアの「現代史」?やさしい嘘公開によせて?』の中から引用。
過酷なグルジアの現代史を行き抜いた祖母。ロシア帝国の崩壊からソ連の崩壊まで文字通り二つの帝国の最後を見届けた世代である。特権を奪い、親族を粛清した共産主義には強く反発しながら、一方で強く秩序ある社会を愛する。
主役エカおばあちゃん(85歳にして映画デビュー!のエステール・ゴランタン)は、どこか「いい時代」を引きずっている。宝物のフランス語の蔵書を愛し、フランスへ出稼ぎしてしまった一人息子の手紙を孫娘の流ちょうなフランス語で読み上げてもらうのが楽しみ。ちょっとした外出でもせいいっぱいのお洒落をして、茶目っ気たっぷりで。なにかにつけ恵まれた「いい時代」を懐かしんではノスタルジーに浸る。
ソ連の絶頂期に何不自由なく育ちながら、唯一欠けていた民族の誇りと自由を取り戻すべく、独立運動の先頭に立った世代である。ところが、実際に体制が崩壊すると職場から電気から全てを失ってしまった。時代の終わりを仄めかしたアフガン戦争で若い夫を失ったという設定まで付け加わっている。やり場のない不安・怒りにさいなまれ、想像したことのない競争社会に投げ込まれ、ある日突然人生が終わってしまったのだ。
エカおばあちゃんの娘・マリーナはアフガンで夫を亡くして以来一家を支え続ける。なにもかもに絶望し、常にイライラ。それでも現実から目を背けることなく必死に働く。
「家芸」のフランス語を糧に何とか新しい世界を切り開こうと苦闘する若い娘。辛い現実の中で、トビリシで会う十代の若者は、皆とてもしっかりしている。特に女性は。祖母や母の心の穴を埋めようとして、必死だがどこか疲れている。ボーイフレンドは出稼ぎに行くといって、すぐに戻って街でぶらぶらしているが、彼女は希望を持っている。しかし、現実は甘くないし、成功を得るために失わなければならないものへの郷愁も感じているはずだ。
エカおばあちゃんの孫娘・アダ。夢見がちな祖母、母の絶望を目の当たりにしながらもこの先自分の人生を何とか切り開こうと希望を持っているものの、グルジアにいたままでは未来も希望もないと見切っている。
この作品中ではとにかく女性が元気。男性は隅っこに追いやられてグウタラしてるばかり、でもこのページではこうも言っている。
極言すれば、家にいて酒を飲んでいるだけである。しかし、その鷹揚さと人懐っこさ、どんな問題も受け流すふてぶてしさ。やはり男性は家庭に必要なのだ。3人とも、男性が欠けている。それは、戦争や経済困難で男が出払った今のグルジアの多くの家庭の現実である。
作品データ
タイトル | やさしい嘘 |
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監督 | ジュリー・ベルトゥチェリ |
キャスト | エステル・ゴランタン、ニノ・ホマスリゼ、ディナーラ・ドルカーロワ |
製作国 | フランス、ベルギー |
製作年 | 2004 |
ジャンル | ヒューマン |
備考 |