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成瀬巳喜男 プレミアム10

人間の絆を静かな眼差しで見つめ続けた映像作家 成瀬巳喜男生誕100周年

ヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズにて、3月5日から5月13日までの間、映画ファンからの投票で選ばれた成瀬巳喜男の代表10作品を、1週間ずつ全作品ニュープリントで連日上映。

という特集上映があったので『山の音』『流れる』『めし』『浮雲』の4本を観てきました。
浮雲』(1955)
成瀬作品の最高峰といわれている作品。戦時中、赴任先の仏印(インドシナ)で出会い不倫関係となった富岡とゆき子。終戦後、妻と別れて君を待っている、との言葉を信じ焼け野原の東京へはるばる赴くゆき子だったが、富岡はいつまでたっても態度をはっきりさせようとしない。ゆき子は途方にくれ、富岡の元を去り米兵の囲い者となってしまう。そこにまた現れる富岡にゆき子の心は戻る・・・。その後も富岡もゆき子も自暴自棄になって一緒に死のうと言い出したり浮気したりまた別れたり、の繰り返しでとめどなく堕ちていく二人。究極のメロドラマ。
戦後の混乱期の混沌とした世の中という時代を背景に、理屈では割り切れない男女の業の壮絶なドラマ。ヒロインゆき子役の高峰秀子は仏印の出会いのシーンでは可憐だがどんどん落ちぶれてやさぐれて、でも男にすがっていく様は凄みがあり圧巻。富岡・森雅之は賞をひとつも獲れなかったそうだけれどものの見事な情けないダメ男っぷり。
お涙頂戴でもなく、無駄に盛り上げることもなく、ただただ淡々と厳しい目線で映し出された傑作。

山の音』(1954)
原節子主演。夫(上原謙)の浮気に苦しみながらも健気に尽くす嫁・菊子に舅は不憫に思い、またそんな菊子に出すぎるほどにあれこれと優しく接する。冒頭は小津作品の『晩春』かのようなさわやかな原節子だけれど、この作品では菊子のうちに秘める女の意地や情熱を静かに力強く演じ、またそれを見事に映し出している。
流れる』(1956)
大川にほど近い花街にある芸妓置屋、つたの家を舞台に、時代の流れの中で変わりゆく花柳界に生きる女性の栄枯盛衰を豪華女優陣の競演で描いた傑作。傾きかけた芸者置屋の女将つた奴(芸妓としては一流だけれど経営はサッパリ)に山田五十鈴、その娘勝代に高峰秀子、つた奴の妹米子(男に逃げられ子連れで出戻り)、つたの家の売れっ子芸妓なゝ子に岡田茉莉子、ベテラン芸妓染香に杉村春子。女だからとお金の問題で甘く見られたり、読みが甘かったり。女同士の火花がバチバチだったり一緒に泣いたり笑ったり。花柳界が舞台なだけに着物も豪華、唄も踊りも見事。ともかく目にも耳にも贅沢な一本。
めし』(1951)
原節子主演。恋愛結婚をしながらも倦怠期をむかえた夫婦(またも夫は上原謙)が家出してきた年頃の姪に家に転がり込まれその奔放な振る舞いに翻弄され、さらにその溝を深めてしまうも最後にはすっきりとした夫婦愛でしめくくる。単調な日々を送る主婦が自分の生き方について悩み、ささやかな幸せを見つける。こまやかな女性の心理描写が泣かせます。

夏にはフィルムセンターで全作上映もあるみたいです。

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