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映画『雪に願うこと』

marcelkesslerによるPixabayからの画像

雪に願うこと』を試写で鑑賞。第18回東京国際映画祭でグランプリ、監督賞(根岸吉太郎)、最優秀男優賞(佐藤浩市)、観客賞の四冠を受賞したこの作品。原作は相米慎二監督の『風花』(傑作です!)に続く映画化となる、帯広在住の作家・鳴海章の小説「輓馬」。もともとは相米監督が映画化を希望していたが、2001年に他界。根岸吉太郎監督がその遺志を引き継いでの映画化となったそう。この作品は『風花』同様舞台は北海道。

物語はやせっぽちで呆然自失然としたビジネスマン風の男が雪原での競馬「ばんえい競馬」の馬場にふらりと現れるところから始まる。

東京でのビジネスで成功を垣間見ながらも、経営していた貿易会社を倒産させてしまった矢崎学。妻からも絶縁され、一流の生活も友人たちの信頼もすべて失った彼は、故郷の北海道・帯広に戻るしかなかった。(公式サイトより


学はきっと漠然と「都会でビッグになってやる」という思いばかりで飛び出したのであろう。運のよさ(そして要領のよさ)も手伝ってかそれなりに成功を収める。その人生は挫折知らず、あるいは挫折するかのところでするりと逃げだしてきた。
ところが今回は絶体絶命のところまできてしまうが、やはり学は逃げ出した。
挙句の果てに妙なプライドの手前、疎遠にしていた兄には「ちょっと顔が観たくなった」とか言ってみたり(10数年も帰ってきていないのに!)、兄の下で働く厩舎のスタッフには軽蔑にも似たまなざしを向ける。

ここらへんでは観ているほうはほとんど学に感情を傾けることはできないであろうなと思う。「逃げるところがあるやつはいいよな」である。

そんな学のことなど意に介さずに、黙々と自分のプロとしての仕事を全うする厩舎の人々。彼らや兄の姿
に学は自分の弱さや愚かさに向き合う決心をしていく。

舞台挨拶で根岸監督が「シンクロしていた」と言っていたように主演の伊勢谷友介(学)の顔つきや佇まいがどんどん変わっていっていたのがとても印象的。映画なので最初から最後まで順番どおりに撮っていたということはないのだろうけれど、そのへんは演技かホントなのか見分けはつかないほど。
映画の台詞で言うと「馬くさくなったなぁ」という感じ。
そして忘れてならない脇を固める豪華なキャスト。佐藤浩市の兄は弟に対する若干のコンプレックスや母や厩舎経営の問題など複雑な思いを抱える難しい役どころを「ずっとそこにいたかのような」貫禄で演じ、前述した『風花』で女優として開花して以来絶好調のキョンキョン(小泉今日子)は期待通りだし!その他の人もキャラが立っていて良かったです。
最後に印象的だったのが音楽で、素朴なギターの音色がその風景や人々(やその働く姿)と見事にマッチ、特に明け方に映える馬たちのシルエット、立ち上る湯気ののシーンが素晴らしかったです。

雪に願うこと | April 15, 2006 (Japan) 6.8
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