『スイミング・プール』『8人の女たち』のフランソワ・オゾン監督による初の英語劇、20世紀初頭のイギリスを舞台にロマンス小説作家として時の人となったヒロイン・エンジェルの成功、凋落、破状のドラマ。
エンジェルは「父親は実は由緒正しい貴族だった」という妄想に耽り、彼女が恋焦がれてやまない夢の象徴(地元の有力者のものであろう)「パラダイス」という名のお屋敷に大勢の使用人を従えて住むことを夢見てきた。
しかし現実はというと彼女が忌み嫌っている「パッとしない地味な境遇(英国の片田舎で、小さな食料品店の2階に母親と住む)」で、そんな生活とはまったくの無縁。ところがいつしかその妄想はあふれる想像力となり、彼女は夢中で一代ロマンス小説を書き上げ、大成功をおさめるところとなる。
エンジェルは常に自信満々で高慢ちき、どちらかというと「お近づきになりたくない」タイプ。でもそれは成功をおさめる前もおさめた後も、そして凋落していっても変わらず、 「彼女の想像の中」での「由緒正しき貴族」のあり方としてその姿を貫き通す。
それを象徴するエピソードとして、エンジェルが初めて出版社に持ち込んだ小説が評価され、ロンドンまで出向くこととなるが「表現が強烈すぎる」などいわゆる「大人の事情」で修正を出版の条件として出されてしまう。そこでエンジェルは迷うことなく「単語ひとつ、コンマひとつ変えない」と言い放ち出て行く。せっかくのチャンスを棒にふることも厭わずに。(その際は発行人側が折れ、彼女の主張は通り、発行の運びとなり大ベストセラーとなる)
成功をおさめたエンジェルは自信をより深め、流行も手伝ってか次から次へとベストセラーを生み出すこととなり、とうとう「パラダイス」を手に入れるまでになる。
やがて、彼女の熱心な崇拝者という詩人ノラが現れ、画家であるその弟エスメに出会い一目ぼれ。エスメは女性関係にはめっぽう評判が良くないが、ここまでくるともうエンジェルには怖いもの無し。一気に結婚までこぎつける。
何もかもが順風満帆に見えたが、第一次世界大戦が始まると一気に運命が狂いだす。
しかし、戦争がというよりは惚れた相手が悪かった。
まったくといって社会経験も恋愛経験もないエンジェルにエスメは手ごわすぎる相手だった。一目ぼれして他が見えなくなったエンジェルはエスメの存在で自身の非凡な才能を信じてただ書き続ける、ということが出来なくなってしまう。エスメを知ってしまったことでエスメ無しでは「夢の世界」の完成はないのだ。
皮肉にもエスメは最後までエンジェル自身にはまるで関心がなかった。しかしエンジェルは彼女の「夢の世界」にエスメを 据えることが出来たとずっと信じ続けるが、そうではなかったと結末には知るところとなる。しかももっと皮肉な現実とともに。
稀代の勘違い少女の壮大なるメロドラマ。
「8人の女たち」のフランソワ・オゾン監督が、若くして成功を手にした女流作家の波乱の人生を皮肉をこめて描いた映画。20世紀初頭のイギリス。幼い頃から上流階級の生活を夢見てきた食料品店の娘エンジェルは、豊かな想像力と文才を生かして16歳という若さで作家デビューを果たす。瞬く間に富と名声を手に入れ、思い描いてきた夢を実現したかに見えたエンジェルだったが、その先には思いがけない運命が待ち受けていた……。
エンジェル : 作品情報 – 映画.com
2007年製作/119分/ベルギー・イギリス・フランス合作
原題:Angel
配給:ショウゲート