映画『トウキョウソナタ』平凡な家族の秘密と崩壊、そして再生

黒沢清監督作品『トウキョウソナタ』を鑑賞。

舞台は東京、線路沿いの一軒家に住む4人家族。

それなりに威厳を保っているサラリーマンの父親、かいがいしく家族の世話にあけくれる専業主婦の母親、毎日好き勝手にやっている大学生の長男、そしてそれなりに素直にスクスクと育った小学生の次男(ボク)。一見平凡だけれど平和な毎日。

ところが父親をはじめ、それぞれに家族に言えない秘密や悩みができ、家族は崩壊へと向かっていく。

物語の軸は「ボク」こと次男の健二だけれど、父親の存在がとても大きく感じられた。父親の帰りが遅いと母親(妻)は寝ず(うたた寝はしていたけれど)に待っていたり、晩ご飯に家族がそろっていたら父親の「キッカケ」があるまでみんな箸を持たないし、こういっては語弊があるかもしれないけれど、けっこう威張っている。

ボクの秘密であるところの「ピアノ教室にこっそり通う」のも、長男がアメリカの軍隊に入隊してしまうときに勘当同然になってしまうのもすべてこの父親の所為でもある。だからこそ彼の「秘密」であるところの「リストラ」はとても家族には言えなかったのであろうなと想像できる。父親の威厳を保つためにも。

そして若干の虚無感と不満を抱えながらも常に家族が「つつがなく」暮らせるよう縁の下の力持ちに徹する母親。崩壊寸前の家族であったが、ある事件をきっかけに彼女にも「秘密」ができてしまう。しかしそれが家族の再生へとつながっていく。

黒沢監督が「次に出演してもらうときは絶対主役でやりたかった」(公式サイトより)という父親役の香川照之はさすがの存在感で、ある意味昭和を引きずった世代の男の強がりなところや弱いところ、そして少々可愛らしいところを熱演。母親はキョンキョンこと小泉今日子が演じたわけですが、彼女とはかけ離れたところであるところの専業主婦であるものの、その役どころの中に秘めたるエキセントリックな部分が表面化したところで一気にその輝きをはなち、心にストンとくるものがあったのでした。女優小泉今日子ここにあり。

役所さんは相変わらずオイシイ役どころでした。エキセントリック!

解説

「アカルイミライ」「LOFT」の黒沢清監督が、東京のごく普通の家庭の崩壊と再生を描いたホームドラマ。主演は香川照之、小泉今日子。小学6年生の次男・健二は父に反対されているピアノをこっそり習っている。しかし父親はリストラされたことを家族に打ち明けられずにおり、兄は米軍に入隊しようとしているなど、やがて家族全員に秘密があることが明らかになっていく……。第61回カンヌ映画祭では、ある視点部門審査員賞を受賞した。

2008年製作/119分/日本・オランダ・香港合作
配給:ピックス

トウキョウソナタ : 作品情報 – 映画.com